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NOT SO BADなブログ

Towards a not so bad world.

村上春樹「1973年のピンボール」を年表で整理してみた【Part.6】

1973年のピンボール 年表 村上春樹

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村上春樹「1973年のピンボール」内の出来事を時系列で整理し、 年表を作ってみるという誰得記事シリーズです。

Part.6はいよいよ完結編!
ここまで整理してみてわかったこと・わからなかったことを総括したいと思います。

よろしければもう少しだけおつきあいくださいませ。。

シリーズ全体の目次

  • まえがき
  • 完成版年表
  • 年表の作成手順
    • 序盤(Chapter0~7):プロローグ〜ラバー・ソウル
    • 中盤(Chapter7~13):ラバー・ソウル〜ピンボール探し
    • 後半(Chapter13~20):ピンボール探し〜講師からの連絡
    • 終盤(Chapter20~26):講師からの連絡〜エピローグ
    • 回想の出来事たち
  • わかったこと/わからなかったこと(★今回)
  • まとめ(★今回)

わかったこと/わからなかったこと

ここまで年表を作成してみましたが、 次はこれによってわかったこと・わからなかったことを考えてみたいと思います。

意外と時系列は混乱していない

これが個人的には今回整理して一番の収穫でした。
どうやらこの物語は、最初の印象ほどには時系列が混乱していなさそうです。

時系列仮説を置いて出来事を並べているのでそりゃそうだろという話もありますが、 既に言い訳したように、重要なのは仮説を前提としてできた年表が、納得のいくものになっているかどうかです。

結果としてはこの仮説のもとで大きな矛盾もなく、物語内の出来事がきれいに時系列で整理できたように思います。 (序盤の出来事は多少時系列が前後していますが)

回想が何回も入り、主観も入れ替わることで勝手に混乱していましたが、この年表で考えると、主要な物語は非常にシンプルに、単線的に進んでいると解釈できそうです。

章分けの規則性が崩れるのは「配電盤の葬式」のあと

年表を「僕」と鼠で色分けした結果、「僕」と鼠の章が交互に続いていたルールがChapter12で崩れていることに気づきます。 (Chapter10が鼠、Chapter11が「僕」なので、ここまでのルールだと次は鼠になるところが、Chapter12も「僕」の話が続く)

何でだろうということで年表を見てみると、どうやら配電盤の葬式が大きなターニングポイントになっているようです。

Chapter11で葬式が終わった後、Chapter12も続けて「僕」が事務所の女の子とランチをする話になり、そこからピンボール探しという物語後半の流れに続いていきます。

まぁそれくらい普通に読んでれば気づくよ、という話かもしれませんが、年表にすることで視覚的にもより明確になりますね(強引)。

直子の故郷訪問はなぜこの時期なのか

プロローグの回想群のなかでも中心的な位置を占めるのが、「僕」が直子の故郷を訪れるエピソード。 直子や金星人との会話を間に挟みながら「僕」が踏切で犬を待つシーンは、妙に印象に残ります。

物語冒頭、回想が入り乱れているところなのでわかりづらいですが、この出来事は1973年5月と明記されています。

1973年9月がこの物語の現在時制で、それ以前の回想はほとんどが学生時代の1969~1970年です。 そのためこの直子の故郷訪問は、2つの時間の間に位置する、とても中途半端な時期に思えます。

今回年表にしてみて初めてこの時期が中途半端なことに気づきましたが、同時にわかったのは、どうやらこの訪問は双子が現れた時期と近いらしいということです。

双子の登場が(あるいは双子を呼び寄せるような「僕」の状態が)何かしらきっかけとなって、直子の故郷を訪問させたのでしょうか。

ただこれは前向きな影響というより、ますます毎日が深く沈んでいくような感覚を覚えた「僕」が、何とか現状を変えようとした試み(結果としてそれは失敗に終わったようにみえるけれど)だったように思います。

このあと再び「僕」が過去と向き合えるようになるには、配電盤の葬式を経る必要があったようです。

回想が入るタイミング(アパートの女の子の話)

この作品は回想が多いという印象がありましたが、整理してみると実は主要な回想はほとんど物語冒頭に固まっています(そのせいで余計に時制が混乱するのですが)。

それ以降で出てくる回想は、電話を取り次ぐアパートの女の子(Chapter5)と、ピンボールに関する回想(Chapter13,15)だけなのです。

年表に整理することで回想の位置が明らかになると、次はどうしてこのタイミングで回想が入るんだろう、ということが気になります。

まずはアパートの女の子の話が回想されたタイミングを考えてみます。

同じアパートの女の子に電話を取り次いでいたエピソード(Chapter5)は、正直唐突に挟まれている印象が強く、今まで読んでいたときは前後のエピソードとの関連性もよくわからないまま、流れていってしまいました。

どうやらこの時期は「僕」が直子を失った時期と重なっているらしいとも思われるのですが、それがこのエピソードでどう扱われているのか、正直よくわからないという感じです。

ただ年表で改めて整理してみると、この回想の前後が

  • [Chapter3] 配電盤の工事
  • [Chapter5] アパートの女の子の回想
  • [Chapter5] 「僕」が配電盤を見て物思いに耽る

という流れになっていて、配電盤が「僕」にこの記憶を回想させていることがわかります(Chapter4は鼠サイド)。

その視点で改めてこの回想を見直すと、回想内でみんなへの電話を取り次いでいる「僕」自身がまるで配電盤のようにも見えますね。

古くなって死んだ配電盤を見ていた「僕」は、その姿を自分と重ねていたのでしょうか。

回想が入るタイミング(ピンボールに関する回想)

次は本編内でのもう一つの回想、ピンボールに関する話が回想されたタイミングを考えてみたいと思います。

ピンボールに関する回想が入るのは、配電盤の葬式の後です。

  • [Chapter11] 配電盤の葬式
  • [Chapter12] 葬式後の木曜に、「僕」が事務所の女の子とランチをする
  • [Chapter13] ピンボールが「僕」の心を捉える
  • [Chapter15] 「僕」が新宿のスペースシップにのめり込む(回想)
  • [Chapter17] 「僕」がスペイン語の講師と会う

※Chapter14,16は鼠サイド

先にも確認したように、葬式の後は章分けのルールまで崩れており、この出来事が物語内で非常に大きな意味を持つことがわかります。

Chapter15の回想では、「僕」が新宿のスペースシップに異常なのめり込み方をしている姿が描かれます。おそらく直子を失った後なのでしょう。

この時期のことは直子につながる記憶であり、「僕」にとって思い出したくない過去だったはずです。

その記憶がこのタイミングで想起されているのは、物語の流れからやはり配電盤の葬式が契機になっていると考えて間違いなさそうです。

プロローグで、直子との思い出を整理しようとしたのか「僕」は直子の故郷を訪問していますが、「何も変わらない」という思いで双子の待つ部屋に帰ってきました。

このとき変わらなかったことが、配電盤の葬式を経たことで「僕」の中で何か変わったようです。葬式後に直子=スペースシップを探しはじめたというのは、「僕」が過去に向き合おうとしはじめている動きのように感じられます。

鼠は女と別れるのが早すぎる

あと年表を整理して圧倒的に感じるのが、鼠の交際期間短すぎ疑惑です。

9月1日に出会って8日に寝ているのはさておき、あれほど物語内で深刻に悩んでおいて、女と別れるまでの期間は若干2か月です。早すぎる。

しかも彼は週に一度しか女と会っていません。 11月9日に連絡をやめたので、その前の週まで会っていたとしても、鼠が女と会ったのは

  • 9/1, 4, 8, 15, 22, 29
  • 10/6, 13, 20, 27
  • 11/3

と、交際前も含めて計11回です。

10月中旬にはもう女との生活に苦しんでいたようなので、幸せな期間はさらに短かったように思われます。 残念です。

まとめ

というわけで「1973年のピンボール」の年表を作成してみました。 個人的には思ったよりきれいに整理できて、なかなか納得のいくものになったようにも思います。

とはいえ文学的な素養のまったくない素人が好き勝手言ってるだけなので、フィードバックがあればぜひぜひ指摘いただけるとうれしいです。

こんな感じの年表がさくっと作れるなんて、とても便利なサービスですねっていう宣伝で終わろうと思ったけど、実際には「ピンボール」を何回も読み直して日付を特定していく作業がしんどすぎました。 誰か他の作品のも作ってくれるとうれしいです。

とはいえ年表を作るのは色々用途もあるしすごく楽しいので、興味を持った人はぜひぜひ使ってみてくださいませ。 (小説の年表化なんて無謀なことをしなければ、年表作成自体はとても簡単です)

THE TIMELINE

長々とお読みいただきありがとうございました。 おしまい。