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NOT SO BADなブログ

Towards a not so bad world.

村上春樹「1973年のピンボール」を年表で整理してみた【Part.5】

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村上春樹「1973年のピンボール」内の出来事を時系列で整理し、 年表を作ってみるという誰得記事シリーズです。

Part.5ではいよいよ物語終盤の出来事を分析していきます。 今回で物語内の出来事整理はいったん完了です。

シリーズ全体の目次

  • まえがき
  • 完成版年表
  • 年表の作成手順
    • 序盤(Chapter0~7):プロローグ〜ラバー・ソウル
    • 中盤(Chapter7~13):ラバー・ソウル〜ピンボール探し
    • 後半(Chapter13~20):ピンボール探し〜講師からの連絡
    • 終盤(Chapter20~26):講師からの連絡〜エピローグ(★今回)
    • 回想の出来事たち(★今回)
  • わかったこと/わからなかったこと
  • まとめ

終盤(Chapter20~26):講師からの連絡〜エピローグ

いよいよ終盤です。「僕」が倉庫でスペースシップと再会して物語はクライマックスを迎え、その後のエピローグへと続きます。

  • [Chapter20] 「僕」が大学講師から連絡を受ける
  • [Chapter21] 「僕」と講師がタクシーで倉庫に向かう
  • [Chapter22] 「僕」が倉庫でスペースシップと再会する
  • [Chapter23] 鼠が女と別れる
  • [Chapter24] 鼠がジェイに別れを告げる
  • [Chapter25] 「僕」が耳鼻科に行く
  • [Chapter26] 「僕」が双子の女の子を見送る

スペイン語講師からの連絡

スペイン語の講師が電話をかけてきたのは十一月の連休が明けたばかりの水曜日だった。
(p.145)

1970年11月の祝日は、「11/3(土) 文化の日」と、「11/23(金) 勤労感謝の日」の2日のみです。

講師に依頼をしたのが10月で、それから1週間程度して連絡があったという描写があるため、ここでいう「十一月の連休」は11/3,11/4を指し、連絡を受け取った水曜日は「11/7」だった、と考えるのが自然です。

※ちなみに11/3は土曜ですが、この頃はまだ土曜全休ではなかったため、土日続けて休みになったのが「連休」と呼ばれているのだと考えられます。何だか申し訳なくなります。

このあとのChapter21,22で「僕」と講師がタクシーで倉庫まで移動し、「僕」が倉庫でスペースシップに再会するという出来事がありますが、この連絡を受け取った日と同日のため、どちらも「11/7」と考えます。

  • [Chapter20] 「僕」が大学講師から連絡を受ける【11/7】
  • [Chapter21] 「僕」と講師がタクシーで倉庫に向かう【11/7】
  • [Chapter22] 「僕」が倉庫でスペースシップと再会する【11/7】

鼠のエピローグ

まず鼠については、エピローグの出来事は以下の2つです。

  • [Chapter23] 鼠が女への連絡をやめる(ある金曜日〜土曜昼)
  • [Chapter24] 鼠がジェイズ・バーでジェイに別れを告げる(土曜の夕方6時)

鼠は毎週金曜に女に連絡をし、土曜の夜に女と会っていました。Chapter23で鼠はその連絡をやめます。

そして女が鼠からの連絡がないことを受け入れ、諦めただろうと思われる土曜の昼まで、ぴったりブラインドを下ろした部屋の中でじっと過ごす。その後鼠は深い眠りに落ち、Chapter23が終わります。

次のChapter24は冒頭夕方6時に鼠がジェイズ・バーを訪れるシーンから始まります。ここも別の土曜と考えることも可能ですが、Chapter23で眠りに落ちた鼠が、目を覚ましバーを訪れたと考えるのが自然でしょう。

よってこの2つの章は、連続する金・土の2日間の出来事だと考えられます。

この2日間がいつなのか。作品内で明確な言及はありませんが、「僕」と鼠の物語は言うまでもなく密接に関係しており、鼠が女との関係を整理して旅立つのは、「僕」がスペースシップとの再会で過去に一応の区切りをつけたことと強く同調していると考えられます。

この観点から、この出来事は倉庫での再会のあと、11/9, 10の2日間だったと考えると納得感があります。

  • [Chapter23] 鼠が女への連絡をやめる【11/9~10】
  • [Chapter24] 鼠がジェイズ・バーでジェイに別れを告げる【11/10】

「僕」のエピローグ

「僕」のエピローグは、以下2つの出来事です。

  • [Chapter25] 「僕」が耳鼻科に行く
  • [Chapter26] 「僕」が双子の女の子を見送る(11月の日曜日)

まずは曜日のヒントがあるChapter26から考えてみます。

11/7の倉庫訪問後で、11月の日曜は「11/11, 11/18, 11/25」の3日です。

ただ倉庫訪問からこの見送りまでに、

  • 双子が綿棒を買ってくる
  • 毎日耳掃除をしてもらう日々
  • 耳が聞こえなくなり、耳鼻科に行く

という出来事がはいるため、11/11は除外されそうです。

残る候補日は「11/18, 11/25」の2日です。 正直ここから先は決め手がないのですが、ここでは「11/18」説を採用したいと思います。

その根拠としては以下です。

  • 見送りが気持ちのいい秋晴れの日として描写されており、時期的に早い11/18の方がやや適切
  • 倉庫訪問からあまり間隔が空きすぎるのも、物語の流れを考えてやや不自然
  • 11/25は社員旅行に行っている可能性がある

最後の社員旅行をちょっと補足します。

十一月に僕達三人はいつも社員旅行をすることにしていたのだ。
(p.107)

という記述があり、「僕」と事務所の女の子のやりとりから今年は北海道に行くことになったようです。

前述したように11月の祝日は2日あり、後半は11/23(金)です。旅行をどの程度の期間行ったのかは不明ですが、ちょうど祝日もあるので11/23〜25を含む期間で行ったと考えることはそれほど無理がなさそうです。

またChapter18で、講師からの連絡を待つ1週間の間にこんな描写もあります。

女の子だけが忙しそうに時刻表を調べ、飛行機やホテルの予約をし、おまけに僕のセーターを二着繕い(以下略)
(p.138)

普通に出張の可能性もありますが、この会社は出張も少なそうですし、時期的にもこれは社員旅行の手配をしていると考えていいでしょう。

さきに検討したとおり、Chapter18は「10/31~11/6」。この時代の飛行機旅行なので、今ほど直前の予約なんてしてないはずで、約1ヶ月前に11月下旬の旅行を手配してたと考えるのはそれほど不自然ではなさそうです。

またもうちょっと違う視点から、この社員旅行は双子との生活が終わり、物語が終わった後に行われるべきだ、とも考えられます。

作品をまたがった話になってしまいますが、事務所の女の子は「羊をめぐる冒険」で「僕」の妻になっている女性です(そして離婚してしまうわけですが)。 非現実的的な世界の住人である「双子の女の子」に対して、現実側の人間として出てくるのが「事務所の女の子」。

社員旅行で二人がいい感じになったかどうかは知りませんが、この物語のあとに二人が結婚に至ることを考えると、この女の子(と共同経営者)との旅行というのはとても「現実寄り」の出来事です。(現実寄りすぎて、物語の中では語られない)

さらに脱線すると、次作の「羊をめぐる冒険」では、「僕」は妻(=事務所の女の子)と別れており、そこから非現実の冒険が始まっていきます。 ここでもこの女の子は「現実寄り」の人間であり、物語の中では語られない存在であることが確認できます。

以上のことを考えた場合、この社員旅行は「僕」が双子との生活を終え、現実世界に向き直った後に迎えているほうが、何となく納得感がありそうです。

社員旅行中、双子が家で留守番してるっていうのも変な感じですしね。

以上の理由からここでは双子見送りが「11/18」だったと考えます。

双子見送りの前の耳鼻科訪問は、さらに言及がないので日時を特定はできませんが、11/7の倉庫訪問後に綿棒を買ってきて、1週間程度耳掃除をしてもらう日が続いたと考えて、11/15頃と考えてみます。

ここは日を特定できないものの前後関係自体は明確なため、あくまで便宜的に日を置いているだけだと考えてください。

  • [Chapter25] 「僕」が耳鼻科に行く【11/15】
  • [Chapter26] 「僕」が双子の女の子を見送る【11/18】

まとめ

物語終盤の出来事を整理すると、以下のとおりです。

  • [Chapter20] 「僕」が大学講師から連絡を受ける【11/7】
  • [Chapter21] 「僕」と講師がタクシーで倉庫に向かう【11/7】
  • [Chapter22] 「僕」が倉庫でスペースシップと再会する【11/7】
  • [Chapter23] 鼠が女への連絡をやめる【11/9~10】
  • [Chapter24] 鼠がジェイズ・バーでジェイに別れを告げる【11/10】
  • [Chapter25] 「僕」が耳鼻科に行く【11/15】
  • [Chapter26] 「僕」が双子の女の子を見送る【11/18】

回想の出来事

ひととおり物語主要部の流れを整理することができました。 最後に回想の出来事の時系列を整理してみましょう。

といっても回想の出来事は基本的に時期が明示されているので、それを並べるだけとなります。

「秋から冬にかけて」など幅の広い描写も多いですが、あくまで出来事間の前後関係を整理すると考えた場合、 回想の出来事同士は前後関係が明確だったり、間隔が空いていたりするため、作品内の描写のレベルで十分です。 (物語主要部のように、日単位で特定する必要がない)

主要な回想の出来事は以下のとおり。

  • [プロローグ] 第三機動隊が大学の九号館に突入。ヴィヴァルディが流れていたらしい(p.7)【1969年11月】
  • [プロローグ] 「僕」が直子と大学のラウンジで話をしている(p.9)【1969年春】
  • [プロローグ] 「僕」が直子の故郷を訪れ、踏切で犬を探す(p.11)【1973年5月】
  • [Chapter1] 「僕」が友人と翻訳事務所を開業する(p.32)【1972年春】
  • [Chapter1] 双子が「僕」の家に来る【1973年4月(※)】
  • [Chapter5] 「僕」が同じアパートの女の子に電話を取り次ぐ(p.61,62)【1969年秋の初め~1970年3月】
  • [Chapter5] 同じアパートの女の子の引っ越し(p.63)【1970年3月の初め】
  • [Chapter13] 「僕」と鼠がジェイズ・バーでビールを飲み続けた頃。鼠がスペースシップに熱中する(p.112)【1970年夏(※)】
  • [Chapter15] 「僕」が新宿でスペースシップに熱中する(p.118)【1970年冬~1971年2月】
  • [Chapter15] 新宿のスペースシップが撤去される(p.121)【1971年2月】

鼠がスペースシップに熱中していた時期は1970年としか言及されていませんが、

  • 「僕」が鼠とジェイズ・バーでたむろするのは夏
  • 同じ1970年で女の子の引っ越しが3月
  • 「僕」が新宿でスペースシップに熱中するのがこの後で1970年冬

であることから、「1970年夏」だったと考えるのがよさそうです。

双子の女の子の登場

双子の女の子が「僕」の前に現れた時期は明言されていませんが、時系列としては以下の間となります。

  • 「僕」が翻訳事務所を開業した1972年春よりも後
  • 直子の故郷を訪問する1973年5月よりは前(故郷訪問後、家に帰るとすでに双子がいる)

ここで双子が着替えを持たず、トレーナー・シャツだけで現れたことから、その時期は1973年春だったと考えられます。

秋が深まってきた頃に「僕」がセーターを買い与えている描写から、住み着いてから寒い季節を迎えるのはこれが初めてだったと思われるためです。

そのうえで1973年5月よりは前になるので、双子との出会いは1973年4月頃と考えられそうです。 11月18日に「僕」の元を去ったと考えると、双子との生活は半年以上続いていたんですね。。

次回予告

ここまででようやく物語全体の分析が終わりました。

次回Part.6では、最後にここまでのまとめと、 年表にしてわかったこと・わからなかったことを整理してみたいと思います。

もう少しだけおつきあいください。