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NOT SO BADなブログ

Towards a not so bad world.

村上春樹「1973年のピンボール」を年表で整理してみた【Part.2】

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村上春樹「1973年のピンボール」内の出来事を時系列で整理し、 年表を作ってみるという誰得記事シリーズです。

Part.2からは具体的な年表の作成手順を説明していきます。 今回は物語序盤、プロローグから双子の女の子がラバー・ソウルをかけるところまでです。

シリーズ全体の目次

  • まえがき
  • 完成版年表
  • 年表の作成手順
    • 序盤(Chapter0~7):プロローグ〜ラバー・ソウル(★今回)
    • 中盤(Chapter7~13):ラバー・ソウル〜ピンボール探し
    • 後半(Chapter13~20):ピンボール探し〜講師からの連絡
    • 終盤(Chapter20~26):講師からの連絡〜エピローグ
    • 回想の出来事たち
  • わかったこと/わからなかったこと
  • まとめ

年表の作成手順

ここからは作品内の出来事を、どのように年表化していったか、その手順を整理していきたいと思います。

完成版年表ではほぼすべての出来事に明確な日付が割り当てられていましたが、作品内で日付が明記されているものはむしろ例外的です。

基本的に作品内の描写と前後の時系列から、各出来事の日付を絞り込むという作業を行っています。

多分に推測も含んでおり、これが絶対的に正しい年表というわけではありません(そんなものはおそらく存在しない)。あくまでも一つの仮説としてお楽しみください。

※ものすごく長くて地味なので、興味ない人は飛ばすのが吉です。

序盤(Chapter0~7):プロローグ〜ラバー・ソウル

まずは物語序盤の出来事から順に検討していきます。

物語は途中から1,2と章ごとに番号が振られますが、その前に多数の回想を含む雑多な文章群が存在します。 ここでは便宜的にこれらの文章をプロローグと呼ぶことにします。

プロローグは特に色々な時制の回想が入り乱れ、時間軸がわかりにくくなっています。

しかしプロローグの最後に明記されていますが、この物語の「入口」は「2013年9月」です。 この9月以降が物語の現在時制となります。

それ以前の出来事への言及はすべて回想にあたるため、まずは現在時制の流れを整理していきたいと思います。

回想の出来事については、最後にまとめて時系列を整理します。

物語序盤の出来事は以下の通りです。

  • [プロローグ] この小説の入口。【1973年9月】
  • [Chapter2] 鼠がジェイズ・バーで過ごす(9月の半ば)
  • [Chapter3] 配電盤の工事(9月の日曜日)
  • [Chapter4] 鼠が無人灯台を訪れる
  • [Chapter5] 「僕」が配電盤を見て物思いに耽る
  • [Chapter6] 鼠と女の出会い(プチ回想)
  • [Chapter6] 女が「鼠」のアパートに来ている
  • [Chapter7] 双子がラバー・ソウルをかける

※Chapter1は現在時制の大きな出来事がないため、ここでは対象外としています。

鼠サイド

まずは序盤の鼠サイドの流れから整理していきます。

Chapter6には、鼠が女との出会いを思い出すプチ回想が挿入されます。 時系列ではこのエピソードが1973年9月で最初に来ます。

  • [Chapter6] 鼠と女が初めて出会う(9月の初め)
  • [Chapter6] 女から電話があり、鼠が女をジェイズ・バーに誘う(出会いから3日後)
  • [Chapter6] 鼠が女と市民プールへ。女のアパートまで送り、寝る(さらにその4日後)

この3つの出来事が9月の前半に起きているのですが、これだけでは日を特定できません。

ここで以下の要素をヒントとして考えてみます。

  • 鼠と女が会うのは毎週土曜日
  • 女は毎週土曜にプールに行く

鼠と女の出会いから初めて寝た日はちょうど1週間後となっているため、この2日はどちらも同じ曜日となります。

女は日曜にヴィオラの教室に通っており、おそらく土曜が動きやすいのでしょう。
プールにも行っていることから、この2日がどちらも土曜だったと考えるのは筋がよさそうです。

9月の土曜日は「9/1, 9/8, 9/15, 9/22, 9/29」の5日ですが、 出会いは9月の初めと言及されているので、「9/1」or「9/8」のどちらかが可能性高そう。

ここでは後続の出来事との接続を考え、「9/1」説を採用します。以下その根拠を考えてみます。

鼠が女と交際を始めてから、9月〜10月頭にかけて以下の出来事が続きます。

  • 鼠が無人灯台を訪れる(Chapter.4)
  • 女が鼠のアパートでシャワーを浴びる(Chapter.6)
  • 鼠と女の霊園デート(Chapter.8)

Chapter4・6では、この時点で既に女のいる生活が何週か繰り返されていると思わせる描写があります。

女の家は突堤の近くにあった。鼠はそこに通うたびに少年の頃の漠然とした思いや、夕暮の匂いを思い出すことができた。
(p.59)

週に一度、土曜の夜、二人は会った。
(p.73)

次項でChapter8は10/6と考えるので、Chapter6はそれ以前の土曜日で、一番遅くて9/29と考えられます。

Chapter4,6の描写を考えると、出会いができるだけ早く、Chapter6の時点ができるだけ遅い方が自然です。

出会いからChapter6までの間隔が一番長くなる日程は以下のようになります。

  • 9/1:出会い
  • 9/8:初めて寝る
  • 9/15:二人が会う(作品内描写なし)
  • 9/22:二人が会う(作品内描写なし)
  • 9/29:すでに何週か会っている描写(Chapter4・6)

仮に9/8に出会ったとすると、初めて寝たのが9/15になり、その後9/22に1回訪問しただけで「通うたびに」という描写になるため、多少不自然です。

ありえないというほどではないですが説得力があるほうを選択し、二人の出会いは「9/1」、Chapter6のシーンは、9/22でなく「9/29」を採用したいと思います。

Chapter4の無人灯台はヒントが少なくて特定しづらいですが、ここではChapter6と同日で女と会う前の描写だと考えてみます。

鼠が車で女のアパートの近くまで来ているシーンで、時間は不明ですが少年時代の描写と重ねると、夕暮れ時だと考えられます。 Chapter4で、少年時代の鼠が灯台が灯る瞬間を見ていたという描写がありますが、次のChapter6ではすでに日が落ちており、鼠のアパートから灯台のオレンジ色の灯が見える描写が入ります。 このことから、この2つの章が時間的につながっていると考えることも可能です。

またちょっと話はそれますが、「(女のアパートに)通うたびに」という描写があるにも関わらず、後のChapter16で女の部屋に入ったのは二回だけという記述もされているため、毎週土曜に鼠は車で女を迎えに行き、鼠のアパートで夜を過ごしていた、と考えると筋がよさそうです。

そうするとこの2つのシーンは、Chapter4は鼠が女を迎えに行っているシーン、Chapter6はそれから鼠のアパートに移動した後のシーンとして考えることができます。

もちろんこの2つが全然独立した出来事と考えることも可能ですが、上記の要素を考えると、2つの章がつながっていると捉える方が自然なように思います。

時系列で序盤の鼠関連出来事を整理するとこんな感じ。

  • [Chapter6] 鼠と女が初めて出会う【9/1(土)】
  • [Chapter6] 女から電話があり、鼠が女をジェイズ・バーに誘う【9/4(火)】
  • [Chapter6] 鼠が女と市民プールへ。女のアパートまで送り、寝る【9/8(土)】
  • [Chapter2] 鼠がジェイズ・バーで過ごす【9月半ば】
  • [Chapter4] 鼠が無人灯台を訪れる【9/29(土)】
  • [Chapter6] 女が鼠のアパートでシャワーを浴びる【9/29(土)】
  • [Chapter8] 鼠と女の霊園デート【10/6(土)※次項で検討】

「僕」サイド

双子がラバー・ソウルのレコードをかける

次に序盤の「僕」サイドの出来事ですが、Chapter7で双子がビートルズ「ラバー・ソウル」のレコードをかけた日から逆算していきたいと思います。

またまた余談ですが、村上春樹の人気作でタイトルにも使用されているビートルズの「ノルウェイの森」は、この「ラバー・ソウル」に収録されているのですね。 つまりこのシーンは「ノルウェイの森」がかかったことに「僕」が動揺していると読める。 趣味の違うレコードがかかったくらいで怒りすぎじゃないかと思ってずっと違和感があったのですが、これを知ってちょっと納得しました。

それはさておき、このレコードがかかった日は、「僕」が休み明けで仕事に復帰した日です。

三日ばかり風邪で休んだおかげで仕事は山のようにたまっていた。
(p.74)

この日は配電盤の工事後で、かつ三日の休みを挟んだあとと考えられます。

ここで時期を検討する材料となるのは、翻訳の締め切りです。休み明けの「僕」の机の上には、翻訳待ちの書類が蟻塚のように積み上がっています。

幸いなことに「至急」蟻塚はそれひとつきりだった。そしてもっと幸いなことには二、三日中にというものもない。一週間から二週間といった期限のものばかりで(以下略)
(p.74)

そしていくつかこの書類が紹介されるのですが、その締切は「10/12」「10/19」「10/23」「10/26」となっています。 (どうでもいいですが、このあたりの描写は皮肉が効いていて非常に好きです)

ここから逆算すると、この日は10月の第1週、10/1(月)〜10/5(金)と考えるのがよさそうです。

それ以前だと一番近い10/12の締め切りまでが2週間以上となってしまいますし、これより遅いと10/12の締切まで近すぎるのと、後続の出来事を配置することを考えても遅すぎます。

ここで「風邪で三日休んだ」という記述に戻ると、これは元々休みの日曜を除いて、平日で三日休んだ、と考えられます。

そうすると、10/1~3もしくは10/2~4を休んだとして、ラバー・ソウルがかかった日は「10/4(木)」or「10/5(金)」と考えられそうです。

ここでは次に検討する配電盤工事が9/30(日)だったと考え、10/1深夜の描写からそのまま「僕」が体調を崩し、10/1~3を休んだと考えて、「10/4」説を採用します。

  • [Chapter6] 双子がラバー・ソウルをかける【10/4(木)】

配電盤の工事

続いてChapter3の配電盤工事ですが、これは「9月の日曜日」ということだけがわかっています。

一九七三年九月....、まるで夢のようだった。
(p.54)

このあとのChapter5は、過去の回想がメインですが最後に現在時制に戻り、深夜3時に目覚めた僕が配電盤を眺めて物思いに耽り、双子の眠るベッドに戻る描写で終わります。

ここも明示はされていませんが、Chapter3の工事の同日深夜の出来事だと考えるのが自然です。

1973年9月の日曜日は、「9/2, 9, 16, 23, 30」と5日あります。

この前のChapter2で九月半ばという描写があるので、時系列の仮説からここも九月半ば以降と考えると、「9/16,23,30」が候補になりそうです。

正直これ以上絞り込む根拠は強くないのですが、Chapter4,6の鼠の出来事が9/29と考えているので、時系列仮説から一番前後の章と日が近い「9/30」を採用したいと思います。

※ただこの章を9/30とすると次章が9/29と逆戻りしてしまうため、ここは時系列仮説が唯一崩れてしまうところです。 しかしChapter3,5が同日の出来事と考えると、間のChapter4とはどうしても時系列が前後してしまうのでしょうがないですね。。

ここで「9/30」を採用することで、この出来事と先に検討したラバー・ソウルが連続した出来事だとみなすことになります。 Chapter5で「僕」が10/1(月)深夜3時に目覚めたあと、そのまま体調を崩して10/1(月)~10/3(水)を休み、10/4に復帰してラバーソウルにつながる、という説です。

Chapter5時点では特に体調を崩した描写はないものの、配電盤を見つめて物思いに耽る「僕」は、電話を取り次いだ女の子のことを思い出しながら、虚無感・閉塞感を感じているように見えます。

だからこのあと体調を崩した、というのもそれほど根拠はないですが、崩したとしてもおかしくはないかな、程度の納得感はあるように思います。

また小規模な翻訳会社で、風邪をひいたからって共同経営者が日曜から4連休なんてできるのか、という観点もありますが、この配電盤工事の日曜は「アルバイト学生が試験期間中」だったため、「僕」は夕方まで家でたまった仕事をこなしています。

だから月曜から休んでもしょうがない、という気もするし、そんな忙しいときに三日も休めないんじゃないか、という気もするし、どちらにせよそんなに強い決め手はなさそうです。この時代の学生の試験期間がわかればもう少し絞りこめるかもなのですが。。

まとめ

序盤の流れを改めて整理すると以下のとおりです。

  • [Chapter6] 鼠と女が初めて出会う【9/1(土)】
  • [Chapter6] 女から電話があり、鼠が女をジェイズ・バーに誘う【9/4(火)】
  • [Chapter6] 鼠が女と市民プールへ。女のアパートまで送り、寝る【9/8(土)】
  • [Chapter2] 鼠がジェイズ・バーで過ごす【9月半ば】
  • [Chapter3] 配電盤の工事【9/30(日)】
  • [Chapter4] 鼠が無人灯台を訪れる【9/29(土)】
  • [Chapter5] 「僕」が配電盤を見て物思いに耽る【10/1 3:00】
  • [Chapter6] 女が鼠のアパートでシャワーを浴びる【9/29(土)】
  • [Chapter7] 双子がラバー・ソウルをかける【10/4】

次回予告

という感じでPart.2は序盤の出来事を整理しました。

次回Part.3はいよいよ物語が動き出す中盤の出来事です。