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村上春樹「1973年のピンボール」を年表で整理してみた【Part.1】

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村上春樹「1973年のピンボール」内の出来事を時系列で整理し、 年表を作ってみるという誰得記事シリーズです。

シリーズ全体の目次

  • まえがき(★今回)
  • 完成版年表(★今回)
  • 年表の作成手順
    • 序盤(Chapter0~7):プロローグ〜ラバー・ソウル
    • 中盤(Chapter7~13):ラバー・ソウル〜ピンボール探し
    • 後半(Chapter13~20):ピンボール探し〜講師からの連絡
    • 終盤(Chapter20~26):講師からの連絡〜エピローグ
    • 回想の出来事たち
  • わかったこと/わからなかったこと
  • まとめ

全6回構成の長文記事になっております。 今回のPart.1では、「まえがき」と「完成版年表」を掲載しています。

お急ぎの方は「完成版年表」だけ見ると、とりあえずふーんってなれると思います。

まえがき

「1973年のピンボール」とは

村上春樹の長編2作目で、前作「風の歌を聴け」に続く作品。

「風の歌」と「ピンボール」、さらに次作の「羊をめぐる冒険」は、物語の世界が共通していると考えられることから、初期三部作としてまとめられることが多いです。 (「ダンス・ダンス・ダンス」まで入れると四部作)

軽快で颯爽としたデビュー作の後で出た本作は、後の作品への萌芽となるようなテーマや構成を取り入れ実験的な色が強いようにも感じますが、もちろん本作単体でも十分楽しめる作品となっています。

後の長編に比べればページ数も少なく、さくっと読めますので未読の方はぜひご一読を(講談社文庫版でわずか183ページ)。 既読の方は年表を見ながら、ふむふむこんな話だったなーと思い出すのもいいですし、再読してから改めて年表見てみるのも面白いと思います。

なんで年表を作ったのか

そもそも今回「ピンボール」を読み直し、年表を作ろうと思ったのはこの記事を読んだからでした。

aniram-czech.hatenablog.com

チェコ映画を専門にされているチェコ好きさんのブログは、非常に含蓄がありながら読みやすい文章で、いつも新鮮な視点をもらえるので楽しみに読んでいます。

そんなチェコ好きさんの「ピンボール」再読記事ですが、本人の言葉をお借りすると、この作品は「すごく読みにくいしつまらない」という位置づけだったようです。

『1973年のピンボール』を私が読みにくいとかんじる最大の要因は、まず時系列がぐちゃぐちゃってことです。1960年→1969年→1973年みたいに順繰りに話が進んでいってくれればいいものを、1973年の話が出てきたあとに1969年の話が出てきて、今度は1970年に飛んで、そしてまた1961年にもどって……みたいになっています。どの話がどの話の前なのか、あるいは後なのか、ぼーっと読んでいるとだんだんわからなくなってくる。話が盛り上がってきたところではぐらかされる。だから私にとってはすごく読みにくいし、つまらない小説です。
前掲ブログ記事より

僕が最後に「ピンボール」を読んだのは数年前でしたが、そのとき同じように時系列があやふやになって、何となく話をつかみきれていないという印象を持った記憶がありました。

「僕」と鼠のシーンが章ごとに切り替わり、かつ過去への回想も挟まってくるので、流して読んでいるとそれぞれの出来事がどういう時系列になっているのかわかりにくいのです。

まぁそれでも気にせず読みふけってしまうくらい、文章のテンポや物語のディテールに惹き込まれてしまっていたわけですが…。

そして今回チェコ好きさんの再読記事に刺激されて数年ぶりに読み返したところ、やはり時系列で混乱しました。 とはいえ混乱したのが自分だけじゃなかったと知れたのはいいきっかけだったので、今回改めて年表で整理してみることを思い立ったのです。

あとちょうど、Web上で簡単に年表を作成できる「THE TIMELINE(ザ・タイムライン)」というサービスを作ったところだったので、「ここでいま使わずにどうする!」という大人の事情もありました。

the-timeline.jp

まだまだベータ版ですが、今回の年表くらいはさくっと作れるようになってますので、興味があればぜひ使ってみて下さい。

注意

  • 当たり前ですが、小説内の出来事を年表で整理するためネタバレします。未読の方はご注意を。
  • 非常に長文になってしまいました。さっさと年表だけ見たい人はこちらをどうぞ。
  • この記事を書いているのは文学的背景など何も持たないWeb業界の人間です。色々大目に見てください。

また1973年の曜日・祝日などを調べるにあたっては、Web上の過去カレンダーをいくつか参照させてもらっています。

1973年カレンダー

完成版年表

というわけで、前置きが長くなりましたが今回作成した年表はこちらです。

app.the-timeline.jp

※スマホでも見れますが、PCで見ることをおすすめします。

  • 年表の上から順に、作品内で出てきた順番で出来事を並べています。
  • 物語の章ごとにグループ分けしていますが、画面が狭いとグループ名が非表示になるため、やはりPC全画面表示がおすすめです。
  • 「僕」の話が赤色、「鼠」の話が青色となっています
  • 拡大・縮小や左右への移動もできますので、適宜操作して見てみてください。

デフォルトの倍率で全体を俯瞰してから、拡大して1973年9月の出来事を追うと物語の流れがわかりやすいと思います。

前提としている仮説

後でこの年表の作成手順を検証していきますが、その前にこの年表が前提としている1つの仮説を検討しておきます。

その仮説は、

【回想内の出来事を除き、「僕」と鼠の話を横断して、章の進行と共に作品内の時系列も進んでいる】

というものです。(以下この記事ではこれを「時系列仮説」と呼びます)

たとえば、ある章が「僕」の話でその次の章が鼠の話だった場合、原則として鼠の話は「僕」の話より時系列で後になる、ということです。

この仮説は、読んでいてなんとなくそんな感じはするものの、作品内で明言されているわけでもないですし、もちろん確証はありません。

この時系列仮説はある種「奥の手」で、他のロジックで絞り込めない出来事の前後関係を考える際に、これを基準に出来事を並べてみる、そうすると矛盾なく出来事がきれいに整理できるように思われる、という程度のものです。

なので今ここでこの仮説を証明するというよりは、この仮説に基づいて作成した年表が納得のいくものになってるかどうか、で判断してもらうのがよさそうです。

ただ物語の構造から考えても、この仮説が考慮に値すると思われるだけの根拠も一応あります。

それはこの作品内で「僕」と鼠は表と裏、あるいは鏡像のような存在として描かれていて、2人の話が並行して1つの物語を進めているということです。 「僕」と鼠の二つの話は、明らかに意識して並列され、時に強く同調しているようにも思えます。

2人の話が時系列順に語られていることが、一番顕著に意識されるのは以下のシーンでしょう。

(10章)
水曜日、夜の九時にベッドに入り、目が覚めたのは十一時だった。それからはどうしても眠れなかった。(中略)そして眠りがゆっくりとやってきた。
(p.91)

(11章)
木曜日の朝、双子が僕を起こした。
(p.98)

10章で水曜の夜、鼠がジェイズ・バーに寄ってようやく眠りについたあと、11章が木曜の「僕」の目覚めで始まっています。

一応補足しておくと、作品を通して鼠は不眠が続いており、ここで十一時というのは水曜の夜十一時です。 補足の補足ですが、作品内で「僕」と双子は安らかに眠る描写が多く、眠りを通して両者の対比を見てみるのもおもしろそうです。

話を戻すと、明確に言及はされていませんが、素直に読むとこの2つの章は隣接した2日間だと考えるのが妥当なように思います。

すべての章がこのようにきれいにつながっているわけではないですが、全体的にこの2つの話が並走して、同じ時系列で物語を進めている、と考えることは十分可能ではないでしょうか。

繰り返しになりますが、この仮説自体をいま証明することはできません。 ただこの仮説に沿って作成した年表が、それなりに納得感があってきれいに出来事を整理できるように思われるので、この仮説を設定することは有用ではないかという程度の提案です。

もちろん他の仮説に基づく他の年表を作ることもできると思うので、興味のある人はぜひ試してもらえればと思います。

次回予告

という感じでPart.1は導入的な話でした。

次回Part.2からは実際に作品内の出来事をどうやって整理していったか、具体的な年表作成の手順に進みたいと思います。